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19世紀末のイギリスを舞台に《幽霊男爵》の活躍を描く『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿』を読んで

ネタバレ感想(きっと世界で一番優しかった幽霊達と生きている彼の話)

さて。このページをご覧になっているのであればネタバレを気にしない猛者か読了済の方だと思いますので気にせずに語ります。
 
1巻冒頭の、10歳のエリオットに対する母の祈りがただただ美しい……
 
初見だとそのシーンは色鮮やかな印象こそあれど、母がエリオットにかける言葉の真意を掴むのは難しいと思うんですよ。
作中でも明確に説明がなされる訳でもないんですが、1話を最後まで読めば、母の言葉の意味が理解できる。
 
幽霊の存在は曖昧で、服の細部がころころ変わったりする。
そして幽霊には色が見えない。
 
その情報をふまえた上で冒頭の文章を読むと、どんなシーンなのか鮮明に分かるようになっています。
 
風もないのに揺れる黄色のドレス。空と海の色をエリオットが答えると、笑みを浮かべてそれでいいのよと囁く、幽霊の母。
 
伝染病にかかった大人達全員が、エリオットひとりを隔離して海に身を投げたという経緯が1話で語られますけど、本人達にとってはすごい賭けだったと思うんですよね。
10歳の子どもをひとり船の上に残して、けして無事に済むとは思ってなかったはずです。
それでも一縷の望みをたくして大人達は海に飛び込んだのでしょう。
 
その後幽霊になった自分達を視認するエリオットに、きっと最初はめちゃくちゃ驚いたと思うんですよね。
心配だからこそ幽霊になって船上に舞い戻ったのでしょうけど、だからといって死んだ自分達のことをエリオットが認識できるなんて想像もしていなかったはずです。
何なら「エリオットも命尽きてしまったのでは」と内心気が気じゃなかったのかもしれません。
 
彼らとエリオットを明確に分けたのが、きっと色なのです。
体を失って色彩を感じることのなくなった自分達と違い、この子はまだ空と海の青をその目に映している。
それはエリオットが無事であることの証だったから、母は訊ねるのです。空と海は何色かと。
 
なんて美しい祈りなのだ……息子に自分達の死を教えず、ただその無事を願いながらその命がまだ続いていることを確かめる……。エリオットを守った幽霊たちは、作中で一番善良な幽霊だと思います。
 
この作品は、幽霊も生きた人間もけしてよいばかりではなく、むしろ素朴な悪意や欲望で動いている者も多いんですが、きっとエリオットは初めてまみえた幽霊があまりに優しかったから、人の世も捨てられないし幽霊からも離れられないんだろうなーと思いました。
 
そして彼を多分人の世に繋ぎ止めてるのはヴィクターとアレクサンドラで、人の輪からはみだした部分に寄り添うのがコニーなのだろうな。困ったご主人に付き合ってるからか(1巻からその片鱗はあったけど)2巻でけっこうイイ性格になってきた気がするよコニー。なんかみんな可愛いな……と気持ちよく読了した次第です。
 
続きが出たらまた買いますので、その時にはヴィクターのイラストをよろしくお願いいたしますえらいひと!!!(……)

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