• はこにわのつくもがみ

少将たちは夢を見るか

  • へしさに
  • 捏造
  • BL表現有
  • さにんば
読了目安時間:18分

へしさに、さにんば表現あり。兎にも角にも捏造がひどいう。みんな秘密を持っている。

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 その日彼は夢を見た。
「さく。さくや。聞こえるか?」
「……散々放ったらかしにして。ようやく会いに来たのか、あんたは」
 夢を渡って会いきたのは、白い髪に朱金の瞳、ひと目で人ならざるものと分かる彼の主だ。
「そう拗ねないでくれよ。お前が俺のものになると選んでくれたから、こうして会いに来れるんだよ、咲楽守」
 咲楽守国広さくらのかみくにひろ。主に与えられた新しい彼の名前だ。
 あのひとにとって、桜はいちばん大切な花だからね。そう娘に教えられていたから、実際はそれほど拗ねていなかったが。訂正するのも癪だったので、そのまま彼は話を進める。
「本当に、何も覚えていないんだな」
「ああ。言っただろう? きれいさっぱり忘れているだろうと」
「一体何がどうして、こんなことになっているんだ」
「俺にも分からん。ただ、あいつが一枚噛んでいるのは確かだろうなあ」
 主の言葉に、彼は重々しくため息をつく。
 
『和泉守が相棒のことを国広と呼ぶだろう? 俺の方が混乱してしまいそうでなあ』
『でも山姥切って呼ぶよか、よっぽどマシではありそうだよねえ』
 
 あの日障子の向こうで主と話をしていた、娘の声。
 主の本丸で暮らしていた過去を、彼女はまったく覚えていない。
 
「今だからこそあんたの命令の意味が分かるが……正直、聞いた時にはさっぱりだったぞ」
「説明のしようがないだろう? この状況」
「まあ、確かにな……」
 
 あの日、記憶を閉ざされるその前に、彼に与えられた主命はひとつだ。
 
 
 
「へし切長谷部を、見張っておくれ。あの子を隠してしまわぬように」
 
 
 
 ――今日もよく切れるあの打刀は、娘の後ろで微笑んでいた。

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