余談:彼と再開してすぐのお話(あるいは、ありえるかもしれない未来の話)
両面宿儺は虎杖とふたり、電車の座席に並んで座っていた。
「おい、小僧」
「んー?」
「おまえ、わざと黙っていたな。アレは伏黒恵だろう」
「うん、仁科先輩な。びっくりするよな、俺も最初ドアノブ壊したもん」
「記憶は?」
「なーんも。呪術のジュの字も知らねえし」
「わざわざあのサークルに居続けるのはそれでか」
「まあね。自己満足だけどさ」
今生はあまりにも平和で、昔は並行世界のようなものなのではと疑っていた彼だったが、間違いなくここは死ぬ前の世界と地続きだ。渋谷には何十年も前に起きたハロウィンテロと呼ばれる事件の慰霊碑が立っているし、御三家も加茂家を除き没落している。五条悟は今なお匣の中だろう。
「地元で釘崎とも会ったことあんよ、俺。やっぱり覚えてなかったけどさ」
「そうか」
「うん」
宿儺の指に、虎杖が己のそれを絡ませる。やわく、しかし二度と逃さないという明確な意思を滲ませながら。
「正真正銘、ふたりぼっちだなあ、俺ら」
ふたりの会話を聞く者は、他にいない。